力学系メモ

 時間 {\displaystyle t} に依存しない函数 {\displaystyle f:\mathbb{R}^{n}⊃W→\mathbb{R}^{n}} を用いて微分方程式 {\displaystyle \frac{dx}{dt}=f(x)} で表される力学系を自励系という。 {\displaystyle x'=f(x,t)} で表される力学系を非自励系という。ここでは自励系について考える。

 {\displaystyle f( \bar{x} )=0} なる点 {\displaystyle \bar{x}} を平衡点という。微分方程式の解の一意性より、平衡点を通る解は定数函数のみである。
 微分写像ヤコビアンを同一視し、同じ記号で表す。 {\displaystyle x} における微分写像{\displaystyle df_x} と書くことにする。平衡点 {\displaystyle \bar{x}} における微分写像 {\displaystyle df_{\bar{x}}}固有値で平衡点を分類しよう。固有値の実部がすべてノンゼロであるとき、その平衡点は双曲型であるという。固有値の実部がすべてゼロ、すなわち固有値がすべて純虚数のとき、その平衡点は楕円型であるという。さらに、双曲型平衡点を次の3つに分類する。固有値の実部がすべて負のとき沈点、すべて正のとき湧点(源点)、正のものと負のものが混じっているとき鞍点という。
 沈点の近くの解は指数函数的に沈点に近づく。すなわち、{\displaystyle λ<0} をすべての固有値の実部より小さな定数とすると、 {\displaystyle \mathbb{R}^n} の任意のノルムに対してある正数 {\displaystyle M} が存在して、
{\displaystyle || φ_{t}(x)-\bar{x}||≦Me^{tλ}||x-\bar{x}|| }
が成り立つ。 {\displaystyle φ_{t}(x)}力学系の流れである。
 逆に、湧点の近くの解は指数函数的に湧点から遠ざかる。すなわち、{\displaystyle λ>0} をすべての固有値の実部より大きな定数とすると、 {\displaystyle \mathbb{R}^n} の任意のノルムに対してある正数 {\displaystyle M} が存在して、
{\displaystyle || φ_{t}(x)-\bar{x}||≧Me^{tλ}||x-\bar{x}||}
が成り立つ。

 次に、Lyapunovの意味での安定性を定義する。平衡点 {\displaystyle \bar{x}} が安定であるとは、任意の近傍 {\displaystyle N(\bar{x})⊂W} に対し、適当に {\displaystyle \tilde{N}(\bar{x})⊂N(\bar{x})} をとると、そこから出る任意の解 {\displaystyle x(t)}{\displaystyle t≧0} について定義され、{\displaystyle N(\bar{x})} 内に留まることをいう。図で表すと、下のようになる。
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 平衡点 {\displaystyle \bar{x}} が漸近安定であるとは、それが安定であって、{\displaystyle t→\infty }{\displaystyle x(t)→\bar{x}} となるように {\displaystyle \tilde{N}(\bar{x})} がとれることをいう。図で表すと、下のようになる。
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 平衡点 {\displaystyle \bar{x}} が安定であるとは、それが安定でないことを意味する。図で表すと、下のようになる。
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 図で{\displaystyle N(\bar{x})} とすべきところを {\displaystyle N(x)} と書いていることに注意。修正するのめんどくさい。

 明らかに沈点は漸近安定であり、湧点は不安定である。次の不安定性定理より、鞍点は不安定であることがわかる。
(不安定性定理){\displaystyle df_{\bar{x}}}固有値で実部が正のものがあれば不安定。
 従って、双曲型平衡点で安定かつ漸近安定でないものは存在しない。楕円型平衡点には安定かつ漸近安定でないものが存在する。例えば、2次正方行列 {\displaystyle A} で定まる力学系 {\displaystyle \frac{dx}{dt}=Ax} について、{\displaystyle A}固有値が純虚数であるとき原点は楕円型平衡点であり、原点まわりの解は下の図のように流れている。
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 沈点の近くの解に対し、差のノルム {\displaystyle ||x(t)-\bar{x}||} は減少函数として見ることができた。もっと一般的に、Lyapunov函数を構成することで平衡点の安定性を判定することができる。連続函数 {\displaystyle V:N(\bar{x})→\mathbb{R}}{\displaystyle N(\bar{x})\setminus \bar{x}}微分可能であるとする。 {\displaystyle V} が次のふたつを満たすとき、 {\displaystyle \bar{x}}Lyapunov函数という。
{\displaystyle (i)} {\displaystyle V(\bar{x})=0}{\displaystyle x \neq \bar{x}} に対し {\displaystyle V(x)>0}
{\displaystyle (ii)} {\displaystyle N(\bar{x})\setminus \bar{x}} 上で {\displaystyle dV_{x}(f(x))≦0}
 また、 {\displaystyle (ii)} の不等式がイコールを含まないとき、狭義Lyapunov函数という。
 例えば、3次元力学系 {\displaystyle (\frac{dx}{dt},\frac{dy}{dt},\frac{dz}{dt})=(2y(z-2),-x(z-1),xy)} の原点におけるLyapunov函数{\displaystyle V(x,y,z) = x^2 + 4y^2 + 2z^2} で与えられる。ちなみにこの平衡点は安定だが漸近安定ではない。
 Lyapunov函数が構成できれば、次のLyapunovの安定性定理によって平衡点の安定性が判定できる。
Lyapunovの安定性定理){\displaystyle \bar{x}}Lyapunov函数が存在すれば {\displaystyle \bar{x}} は安定。また、狭義Lyapunov函数が存在すれば漸近安定。