催眠商法(SF商法)潜入ルポ

 昨日12時50分、京■大学近くの某シェアハウスに到着。13時、メ■ーマー■潜入部隊が集合した。作戦は15分後、■都大学から歩いて数分のところに2ヵ月限定で店舗を構える「■リー■■ト」にて決行。ここで行われているのはいわゆる「催眠商法」「SF商法」で、要は来場者プレゼントなどの餌によっておびき寄せた老人・主婦らを心理学的な手法で洗脳し、購買意欲が異常に高まった段階で高価な商品を売りつける悪質な手口だ。
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 企業名をググってもあまり多くの情報はヒットしないが、2005年にヤフー知恵袋で被害が報告されているのを確認することができる。2ちゃんねるでもたまに言及されるらしい。労働環境が粗悪、脱税が発覚したなんて噂もある。当日0時過ぎにメリ■■■トツアーのことを知ったが、こんなに面白いオモチャもなかなかないのですぐに同行を決めた。

 受付で米1kgを受け取った。入場にはひとりにつき100円が必要となる。すべてが終わったあとにトイレットペーパー12ロールが支給され、さらに前日も参加していれば、メリ■■ー■を紹介した側とされた側がそれぞれティッシュを5箱ずつもらえる。1時間と少し座っていれば確実に1,000円分以上の物資と話のネタが手に入るのならまあ悪くない。
 特に問題なく入場できたが、100人ほどの老人で溢れかえる会場で20代前半の僕たちはとてつもなく浮いた。開始時間の10分以上前にはすでに席が埋まっていたため、最後列に予備の椅子を用意してもらい、着席した。iPhoneのボイスメモを起動してポケットに忍ばせる。内装を撮影しておきたかったが、誰にも気づかれず写真を撮ることはできそうになかった。ただ白いペンキで塗られただけの無機質な壁、古びたパイプ椅子、トイレットペーパーしか並べられていない前方の長机、店長の頭上に掲げられた不気味な笑顔のロゴマーク。見たところ相手方の勢力は3人で、よく喋るガリガリの店長(新婚)、ぽっちゃり体系アラレちゃん眼鏡の女性店員(さーちゃん22歳)、ぎこちない体育会系男性店員。こちらは8人いるので殴り合いになれば奥にあと数人いたとしても勝てるはずだ。

 予定よりも10分ほど早く店長の弾丸セールストークが始まった。

店長「はい、えー、それでは皆様お待たせいたしました! 改めまして、こんにちはー!」
老人「「「こんにちはー!!!」」」
店長「はい、えー、それではですね、まだお時間前ではございますけどもね、あの、ちょっとですね、人が多いんですごく暑いんですけども」
さーちゃん「そうですねー」
店長「あの、今日の朝、もっとすごかったんですよ!」
さーちゃん「はい」
店長「ねえ、あの、けっこうね、お客さんらですね、お昼空いてるからお昼行こうって方が多かったんですね」
さーちゃん「そうですね」
店長「でもですね、朝から少ないかなーと思ったらめちゃめちゃ多くて! 朝も多くてお昼も多くてですね、こんなに街に人がいるのかなと」
さーちゃん「うんー」
店長「噂らしいんですよ。なんかぞろぞろ人が歩いてるけど、祇園祭今日やったかなーって」

 当然だが、喋りはなかなかうまい。老人たちも数日前から複数回ここに来ているため、統率のとれた反応を返してくれる。コールアンドレスポンスもほぼ完璧だ。前日に同じ場面があったのだろう。まるで打ち合わせでもしたかのように声を揃え、老人たちは店長の望んだ通りの反応を引き出される。うまく合わずとも店長がそれを笑いに変え、失敗したところを何度か練習する。おそらくこの練習も後日生かされることになる。僕が店長のジャブにひるんでいると、間髪入れずに店長とさーちゃんのあっちむいてホイバトルが始まった。会場を左右で店長チームとさーちゃんチームに分け、勝った側が全員きしめん1袋をGETする*1。普通に楽しい。この時点でトーク開始から3分。もう引き込まれそうになっている。「こっそり録音している*2」という緊張がなければもうあちら側に取り込まれていたかもしれない。

店長「笑うと人間は免疫が上がります。みなさん、癌という病気、なりたいですかなりたくないですか? なりたくは?」
老人「「「ない!!!」」」
店長「なりたくは?」
老人「「「ない!!!」」」
店長「(さーちゃんを指差して)彼女はお金が?」
老人「「「ない!!!」」」
店長「そうなんですよー!」
老人「「「ワハハハハハハ!!!」」」

店長「残念ながら健康食品バリバリ食べてる人だけが元気で長生きできるんか言うたらそうでは」
老人「「「ない!!!」」」
店長「そうでは」
老人「「「ない!!!」」」
店長「私は骨と皮しか」
老人「「「ない!!!」」」
店長「いやいやいやいやいや!」
老人「「「ワハハハハハハ!!!」」」

 こんな感じのコールアンドレスポンスが頻繁に挿入され、ちゃんとやらないと体育会系男性店員が圧をかけてくる。彼は背が高いうえに笑顔が下手なので本当に怖い。黙ったまま店長の話を聞いていたら結構マジなトーンで「後ろ2人!」と怒られたし、老人にもたまにきつく当たることがある。さーちゃんより年上とのことだが、濱田マリっぽいハキハキとした喋りのさーちゃんと対照的に店長の話への相槌が絶望的に棒読みで、タイミングもガバガバだ。この仕事をこの先も続けるのなら早く改善したほうがいい。

 店長が健康にかんする話について全然エビデンスを出さないことは少し気になっていたが、序盤はトークのスピードにまんまと誤魔化されていた。疑問を持つ隙も与えてくれない。立ち止まって考えていると店長は先へ先へと話題を変えていってしまう。この話は本当に商品と関係があるのだろうか。だが、20分くらい経った頃に店長がとんでもないことを言い出したもんで、僕はようやく正しく状況を認識することができるところまで回復した。

店長「実はですね、そういう放射能が漏れてですね、魚にですね、大きな影響を与えている魚が、あるんですよ。そしてですね、そういうものを食べるからですね、今ですね、若者たちに、病気がすごく多いんですよ。で、それが何か言うたらみなさん、奇形児とか異常児*3って言われてるんですけども、ねえ、あの、異常児の子供が非常に多い! もっと言うとですね、あの、異常児じゃなくてもね、アトピー、アレルギーがなんで多いのかって調べてみたときに、親が食べるものが悪過ぎるんですよ! わかります? だからですね、今はですね、あの、こういうふうに指が一本少ない子供を少指症*4って言います」
さーちゃん「少指症!(かわいい)」
店長「指が一本少ないんですよね、四本しか無いんですよ。逆にですね、指が一本多い子供を多指症って言うんですよ」
さーちゃん「多指症!(かわいい)」
店長「そしてね、可哀想なのがこの前ですね、海外のほうになるんですけれども、赤ちゃん生まれたら鼻が無かった子供が生まれたんです。鼻が無かった」
さーちゃん&老人「「「へー!!!」」」
店長「それがですね、あの、なんや言うたら、無い鼻と書いて、無鼻症と呼ばれます!」
男性店員「無鼻症!(棒読み)」
店長「無鼻症! そしてですね、目が一個しかない子供を、単眼症と言います!」
さーちゃん「単眼症!(かわいい)」
店長「で、単眼症の子供は可哀想にね、目が無いときに、右とか左だけ無いんじゃないんですよ。で、どうなるんですか言うたら目が必ず真ん中に寄るんですね」
老人「「「へー!!!」」」
店長「単眼症って。で、あの、そういう子供が生まれてます。じゃあなんでそういう子供がいま多くなったのか言うたら一番調べてみたら、やっぱり食べ物が悪くなってるんです!」

 店長、お前……よりにもよって理学研究科を置く北部のすぐ近くでやりやがったな……! 僕の頭の中ではなぜか機動戦士ガンダムUCのBGMが流れていた。
 ここで店長は韓国海苔12パックセットの紹介をしたかったようだが、放射能の話は全く必要なかった。「奇形児」「異常児」などの衝撃的なワードで無駄に老人の不安を煽り、なんかよくわからんがとりあえず海苔を買えば安心だというふうにミスリードしたように見えた。

 その後も店長は会場内の学生の目も気にせず根拠の不明瞭な話を続け、さーちゃんはキュートで、体育会系男性店員は棒読みだった。男性店員の発する圧で1時間の洗脳トークは異常に長く感じられた。今日販売された商品はほぼ常識的な価格設定だったが、2ヵ月かけてこの老人たちは徐々に高い商品を買わされるようになっていくことだろう。なんと今だけ12,900円分の青汁を購入するだけで会員登録できるだなんて謳っていたが、もはや誰もおかしいと感じていない様子だった。
 14時半ごろにようやく店長のトークと商品の販売が終了し、僕たちはトイレットペーパーとティッシュを受け取った。人数が人数だけに、なかなかの収穫だ。

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 帰り際に潜入部隊のメンバー数人が店長と少し会話した。店長は傍目から見ると来場者プレゼント乞食の僕たちにも優しく対応してくれた。根はいい人なのかもしれない。店長、あんたとはもっと別の出会い方をしたかったよ。そしたら、友達になれたかもしれないな。

 ――ある程度の覚悟はしていたが、やはり催眠商法は恐ろしい。年老いた自分がもしひとりだけでこういった場に足を運んでしまったら、正直なところ催眠商法に絶対引っ掛からないとは言えない。今回潜入した8人は、心理学とか社会学とか、何かしらそういう武器を持って臨んでいる。それでも何人かは「引き込まれそうになった」と感じた。彼らの手口は相当洗練されている。僕の無防備な家族があの場にひとりでいたらどうなっていただろう。そう考えると、メ■ーマ■■をただネタ的・アトラクション的に消費しているだけではいけないのではないだろうか。この店長よりも強引な、もしくは■リー■■トよりも強引な手を使う者もいるはずだ。自分、そして家族の身を悪徳商法から守るため、僕たちはどうすれば良いのか。彼らの手口をもっとよく知っておく必要がありそうだ。

*1:さーちゃんが勝利した。

*2:https://www.youtube.com/watch?v=kbsr2qRxPMM

*3:放射線医学県民健康管理センターの調査結果(http://fukushima-mimamori.jp/outline/report/media/report_h26.pdf)によって否定されていることは調べればすぐにわかる。

*4:欠指症のことか?