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ひとなぐりこけし

完全な球体と屋根の上に降り積もる女の子のやわらかい死体

倫理

 べつにこだわりとか愛着とかがあるわけじゃないのだが、なんか馴染みのある言葉がまったく違った意味で使われてるのを見るとムズムズするので(こういう記事を書くのはハチャメチャに格好悪いというのはわかっているけれど)僕の現時点での理解を残しておく。

 「倫理界隈」という言葉がインターネットに初めて現れたのは、僕が把握している限りでは2014年春だった。僕たちは何者かによって大規模なリプ爆テロ*1を受ける。そのメインターゲットとなっていた2人周辺の界隈が倫理界隈と呼ばれたのだが、彼らはいくつか共通の特徴を持っていた。彼らの多くは文学フリマ界隈で、哲学・向精神薬・不謹慎ネタを好み、時折ドストエフスキー風のエモーショナルな文体で倫理が、天皇が、黒人が、とか言ってホモソーシャル的・オタク的に盛り上がっていた。よく「メンヘラ神」(「善き倫理を」と言い残して自殺した女性)関係の人間たちと思われているらしいが、「善き倫理を」の元ネタはK坂ひえきだから順番が逆なんだよな。

 そして、2014年のうちに倫理界隈という言葉で指されるような集団は消滅したと僕は思っている。リプ爆テロの後ちょっとギスギスしていたし、みんな自分の生活の変化(学業、仕事など)に適応するのに忙しい時期だったんじゃないかな。はるしにゃんの病状の悪化も相まって、みんなだんだん大人しくなってきた。

 2014年の後半から2015年の前半には東京のオシャレメンヘラがたくさん出てきて、倫理界隈と呼ばれた人間たちと交流するようになった。ここを全部合わせて倫理界隈と認識している人間もいるらしい。でも、でもな、もうそんなもの、とっくになくなっちまってたんだ! ……ここにあったんだよ、確かに……なあ、どこへ消えたんだ? きらきらと輝く、力強い、俺たちの、あの倫理は……。それに、やっぱり僕は根暗オタクだから、東京のシャレオツメンヘラと一緒にされるのには抵抗がある。

 2016年になると、ツイッター発達障害ブームみたいなものが起こった。インターネットで変なことを言っていた社会不適合者たちは仲間を見つけ、次々と繋がっていった。彼らは言葉に独特のインターネット文脈を付加して遊ぶのが好きで、それまでシュールな、または迫力ある語として持て囃されていた「クソデカい蟹」「完全な球体」「黒人」「天皇」のような単語は勿論のこと、「コーギー」「ペンギン」「女児」などの普通の単語で大喜びする段階にまで複雑にインターネット文脈が張り巡らされた。現在ではこのような、いわゆる「文脈語」を駆使する人間たちを倫理界隈と呼ぶことが多いらしい。

 繰り返すようだが、倫理界隈というのはとっくの昔に終わった局所的ムーブメントの残骸である。男子高校生の仲良しグループが進学して離れ離れになるように、あるいは大学生たちが就職して瞳の光を失うように、それは終わったのだ。もうそんな、死んだ言葉を使っても仕方がないだろう。終わったんだよ。終わったんだ。そう、すべて……。